東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)161号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を検討する。
1 成立に争いない甲第二号証(本願発明の特許出願公告公報。以下「本願明細書」という。)によれば、本願発明は左記の技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙第一図面参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本願発明は、組立用ロボツト、特に多関節作動アーム部及び垂直軸を備えた記憶・再生型組立用ロボツトに関する(第二欄第四行ないし第六行)。
自動組立作業の基本となるのは軸と穴との嵌合作業であり、これを自動的に行うために、例えば昭和四九年特許出願公開第一一三三六六号記載の反力検知装置が知られている(第二欄第一一行ないし第一六行)。しかしながら、従来の反力検知装置は、物体の保持機構と駆動軸との間に前後、左右及び上下三方向の反力を検出するセンサ機構を設け、センサの出力信号によつて駆動軸を制御して軸を穴へ装入する作業を行うので、ミクロン単位の精度で装入を行うことが可能であるが、特殊なセンサを必要とし、反力検知装置自体が複雑となると共に作業速度も遅いとの難点があつた(第四欄第二七行ないし第三七行)。
本願発明の目的は、比較的融通性のある作業が可能な多関節作動アームを持ち、構成が簡単で、しかも作業速度が速く動作範囲も広い小型の記憶・再生型組立ロボツトを提供することにある(第五欄第二四行ないし第三〇行)。
(二) 構成
前記目的を達成するために、その要旨とする構成を採用したものである(第五欄第三三行ないし第四四行)。
本願発明の一実施例を別紙第一図面によつて説明すると、第1図(平面図)に示されているように、ターニングデイスク2に水平方向旋回自在に基端部を枢着された第一水平アーム3、及び、右第一水平アーム3の先端に水平方向旋回自在に枢着された第二水平アーム4は、それぞれ旋回によつて屈折した形になる。第二水平アーム4の先端には正面向きアーム5が枢着されるが、この正面向きアーム5は、第一水平アーム3及び第二水平アーム4がどのように旋回屈折した場合にも、水平旋回してロボツト正面方向(すなわちY軸(前後軸)と平行)を保持する。以上の第一水平アーム3、第二水平アーム4及び正面向きアーム5の連結によつて、水平方向にのみ旋回する多関節作動アーム部6が構成される(第六欄第一五行ないし第三六行)。
また、第2図(側面図)に示されているように、多関節作動アーム部6の先端には、把持具11が、垂直軸である垂直シリンダ9に吊持されている。この把持具11は、水平ターニングモータ12によつて水平旋回し、また捩り用ターニングモータ13によつて先端の向きを変えるように構成されている。そして、右把持具11を吊持する垂直シリンダ9は、伸縮作動によつてZ軸(上下軸)と平行して昇降する(第六欄第三七行ないし第七欄第一行)。
ロボツトのX軸(左右軸)方向及びY軸(前後軸)方向の動作は、第一水平アーム3及び第二水平アーム4の、それぞれの基点O1及びO2を支点とした水平旋回動作と、把持具11の基点O4を支点とした水平旋回動作によつて行われ、Z軸(上下軸)方向の動作は、把持具11を吊持した垂直シリンダ9の昇降動作によつて行われる。組立作業においては、このZ軸方向の変位はストローク範囲が大きくない(第七欄第三行ないし第一一行)。
このロボツトは、Z軸方向に加わる外力に対して強く把持具11の先端がほとんど変位しないが、X軸方向及びY軸方向に加わる外力に対しては軟らかく動く選択的な柔らかさを持つているので、X軸方向及びY軸方向の外力がわずかなものであつても把持具11の先端は比較的大きく変位する。したがつて、例えば穴に部品を挿入するとき部品の位置が穴に正確に一致せず位置ずれが生じていても、部品が穴の入口に当たることによつて外力を受けると、多関節作動アーム部6は右外力の水平方向分力によつて水平方向にのみ変位し、部品と穴とが一致して部品を穴の中へ正確かつ迅速に挿入することができる。モーメントに対しても同様であるから、部品挿入あるいは圧入等に使用してもこじれの少ない作業が可能となり、組立作業の能率を非常に高めることができる(第七欄第四〇行ないし第八欄第一二行)。
Z軸を重力の方向にとると、本願発明のロボツトはこの方向の外力に対して強いから、取り扱う部品の重量による多関節作動アーム部6の変形はほとんど問題にならない。その結果、多関節作動アーム部6の変形を考慮した制御を行う必要がなくなり、ロボツトの制御を更に簡単にすることができる(第八欄第一三行ないし第一九行)。
(三) 作用効果
本願発明は、把持装置の保持機構を、把持装置に加わる外力に対して柔らかさに方向性がある多関節作動アーム部及び垂直軸によつて構成したので、構成が簡単であるのに組立作業を迅速にすることができる。また、把持装置を昇降及び回転又は水平旋回制御可能にしたため、多関節作動アーム部とあいまつて、従来のロボツトに比べて作業域が広く、かつ多様な応用動作が可能である(第一〇欄第四行ないし第一四行)。
2 一方、成立に争いない甲第三号証によれば、引用例1には「ダツシユパネル小物溶接用TECロボツト(リンクアームガンタイプ)」と題されたものが示されているが(別紙第二図面参照)、そこに図示された構造は、θ4ユニツトから延びている第一のリンクアームの先端にθ3ユニツトが連結され、右θ3ユニツトから延びている第二のリンクアームの先端にエクスパンダガンが連結され、右エクスパンダガンには上方から溶接二次ケーブルが連結されている点を要点とするものであると認められる。そして、右θ4ユニツトは第一のリンクアームを水平方向に旋回するためのものであり、θ3ユニツトは第二のリンクアームを水平方向に旋回するためのものであると考えられるから、引用例1記載のTECロボツトは、θ4ユニツトをリンクアームの第一の関節とし、θ3ユニツトをリンクアームの第二の関節とするものであつて、これを審決は「多関節作動アーム」と表現しているものと解することができる。
ところで、前記認定事実によれば、本願発明の組立用ロボツトは、位置決めの最終段階においては把持装置に把持した部品を位置決めされる対象物に当接し、多関節作動アーム部及び垂直軸の「方向性のある柔らかさ」を利用して最終的な位置決めをすることを企図したものであることは明らかである。これに対し、引用例1記載のエクスパンダガンは、リンクアームの水平方向旋回による位置決めが完了するまでは上方に保持されており、所望の位置に位置決めされた後に垂直に下降して溶接を実施するものと考えるべきであつて、位置決めのいずれかの段階においてエクスパンダガンを溶接される対象物に当接し多関節作動アーム部及びエクスパンダガンの「方向性のある柔らかさ」を利用して位置決めをするものとは考え難い。
また、仮に、引用例1記載のエクスパンダガンが位置決めのいずれかの段階において溶接される対象物に当接するものとしても、引用例の図面からは、θ4ユニツトないしθ3ユニツトによるリンクアームの水平方向運動の円滑性と、エクスパンダガンの昇降運動の円滑性との間に差があるのか否か(すなわち、「方向性のある柔らかさ」を有するのか否か)は、全く解明し得ないといわざるを得ない。
3 以上のとおりであるから、引用例1には溶接装置に加わる外力に対して多関節作動アーム部及び垂直軸の水平方向の柔らかさが垂直方向の柔らかさより大きくなるように構成された溶接用ロボツトが記載されており、本願発明と引用例1記載のものは装置に加わる外力に対して多関節作動アーム部及び垂直軸の水平方向の柔らかさが垂直方向の柔らかさより大きくなるように構成されたロボツトである点において一致するとした審決の認定は、合理的構拠がなく、明らかに誤りというべきである。
そうすると、本願発明と引用例1記載のものが右の点において一致することを前提としてなされた審決の判断は、その余の取消事由の存否を判断するまでもなく違法であつて、取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
支持体と、前記支持体に水平方向旋回可能に順次取り付けられた複数個のアームによつて構成された多関節作動アーム部と、前記多関節作動アーム部の先端部に取り付けられた垂直軸と、前記垂直軸の下端部にこの垂直軸を介して昇降、及び回転又は水平旋回制御可能に取り付けられた把持装置とを備え、
前記把持装置に加わる外力に対して、前記多関節作動アーム部及び垂直軸の水平方向の柔らかさが、垂直方向の柔らかさより大きくなるように構成されたことを特徴とする、記憶・再生型組立用ロボツト。(別紙第一図面参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙第一図面
<省略>
<省略>
別紙第二図面
<省略>